三沢基地航空祭2010
2010.9.19

「暑ちぃよ。」

テキトーな返事をしながら、ハッとした。
芳しくない天気予報なんかぜんぜん気にしないふりをしながら、
その実、心のどこかで気をもんでいたことは、青森駅へ向かうバスの中で
青森出身のアイツとなんとなく交わしたメールからも自分で認めざるを得ないだろう。
小雨に霞むターミナルに暗澹とし、涼しい?と問われるまで、
肌に感じる温度の違いさえ気にする余裕がなかった。

事前に発表されたプログラムによると今回は例年より多い地元部隊の展示飛行や
お馴染みのブルーインパルスに加え、初来日となるアメリカ空軍のA-10デモチームが飛ぶことになっていたし、
地上展示機にもB-52が名を連ねるなど、やはり三沢は“東の横綱”だという貫禄を見せつけていたのだから、
この空模様と天気予報は私の気持ちを冷え切らせるには充分だった。

何でよりによってこんな年に雨になるのか、恨み言の2,3個もぶつけたくなるのは当然だ、と、
いつもは「天気なんか気にしない」と強がっている自分の矛盾を甚だしく正当化した。

―矛盾したらダメだなんて法律はないんだし。

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初めてここを訪れたのはもう16年も前だ。当時は路線バスを利用したものだが、今年はシャトルバスが準備され、台数も増えていた。僅か160円、それに百里基地のような渋滞もない。

天気は思ったほど悪くない。視程も良いし雲低だって高い。小雨はぱらついているが、ウェザーチェックのT-4が雲に隠れることなく、なんどもフライバイしていた。

「これ行けるんじゃないですかね?期待したら罰当たりますかね??」心の中でブツブツと、何故か丁寧語で自問自答しつつ、例年の半分ぐらいしかいない開門待ちの人波に漂った。

かつて、三沢といえばこのF-1!というのが当たり前だった。それが今では第8飛行隊もF-2に機種改変を完了、手前のF-16部隊と併せて隼族の一大営巣地になっている。戦闘機開発能力を有しながら結局はアメリカの技術を押し付けられる日本の現状を、もっといえば50周年を迎えた日米安保がさらにアメリカ主導になっているのではないかと、そんなことを考えさせられる。

でも悪いことばかりではない。正門から航空祭の会場であるエプロン地区にたどり着くまで、これほどの距離を歩かなければならない、これぞ空軍基地!というような巨大な要塞は空自単体では建設できないだろう。

北部航空方面隊司令部を通りかかると、ちょうど司令が登庁したところだった。いくつもある会場へのルートも、うまく選択すれば基地中枢部でこんなシーンも見ることが出来る。

ただ、やはりアメリカ空軍の存在が大きいことは、司令部を睨むように配置されたこのファントムが如実に物語っている。

そしてアメリカ人はやはり何かカンチガイしている…ということも、この変な日本庭園から一目瞭然だ。
とにかくここは、日本でありながらアメリカが主導権を持ち、そのため「アメリカ人が考えた日本」がビジュアル的に明示されることになった“ニッポンランド”なのだ。もちろん、センスはとてつもなく悪い。

こんな帽子をかぶったナニモノかのような可愛らしくもアメリカチックな消火栓のほうがよっぽど見応えがあるのに、あえて石灯籠を置く。何故か鳥居だけポツンと立っている。やっぱりここは日本ではない。アメリカ合衆国・三沢cityだ。

その証拠に、日本法人ではないバーガーキングが当たり前のように建っている。

そして今年はエアショー特別メニューとして、やる気があるんだかないんだかよく分からない状態になっていて、いよいよお祭りらしくなってきた。

正門から20分以上歩いただろうか、まだたどり着かない。この巨大な基地には空軍だけではなく、海軍も同居している。よく注意してみれば、飽きることのない基地なのだ。

たとえアルファベットが記載されていなかったとしても、明らかにアメリカ人が作ったことが丸分かりの変な絵も、こんな日にならいいネタになる。

できるだけ並んでいる人の少ない入り口を探し、入場した場所は会場右手の空自地区だった。

目の前に一通り並ぶ空自航空機。まとめ撮りで済ませてしまおうと考えたくなるほどたくさんの航空機が広い会場に散らばっている。意外に明るい空に気をよくし、会場中央方面へどんどん歩いていったが、その時は、あとで後悔することになるなんてこれっぽっちも思っていなかった。

変わったものがあるとついつい撮ってしまうのも、仕方のないことだ。

それとは似つかわしくもない巨大な空対艦ミサイルも置かれている。あとで戦闘機への搭載作業を披露する為に準備されているのだろう。

正面にはここの主役であるF-2とF-16が顔をそろえていた。そっくりだ。もし塗装を同じにされたら、すぐに区別できるだろうかと、いまさらながら心配になる。

ゴーン氏の指導の下、瀕死の状態からよみがえった日産がその後に生産した車はみんなルノー車と同じ顔をしていることを思い出した。

F-2は日米安保50周年のマークを付けているが、日産と同じではないのか。安保条約の名の下、アメリカと同じ顔をすることを半ば強要されてはいないか。

なんてことは、少しも思わない。だって、どう見てもF-2のほうがF-16よりかっこいい。ざまぁみろ、だ。

だいたい、難しいことなんか考えなくて良い。今日はお祭りだ。日米安保50周年、フレンドシップ、大いに結構。おかげでこんなかっこわるい攻撃機の展示飛行さえ、国内で見ることが出来るのだ。

巨大なハンバーガーに齧り付きながら、素直にエアショーを楽しめば良い。

それには当然ピザも必須アイテムなのだが、今年は何故か見つからない。ピザは、ピザはどこだ!!探し回っていたせいで、オープニングの離陸はこれ以外撮り逃してしまった。バカバカしいが、これもまた楽しい。

本当はヒコーキにしか興味がないのだが、珍しいと思うとついつい撮ってしまうのもマニアの性なのかもしれない。そして、去年も撮っていたことに後で気づく。


星条旗を背負ったF-2、日の丸を背負ったF-16。一昨年ぐらいからかなんだかこんなわざとらしい演出さえ見せている三沢は、他の航空祭とはやはり一線を画している。アメリカのエアショーと日本の航空祭が、見事に融合しているのだ。

だからこんな巨大な展示機を呼ぶことだって出来る。MTレターは初めて見た。それにしてもこんな会場の端に置かなくたって良いではないか。気づかなかった人も多いのでは?と、なんだかもったいない気がしてしまう。

それに実は反対側の端にいた8Sq50周年記念機を見逃した私は、特に強くそう思うのだ。

余談だが、航空ファン誌のブログによると、実は今年はこれ以上にビッグなゲストが計画されていたらしい。なんと、今年で退役となるオーストラリア空軍のF-111を招致、ダンプ&バーンを含めた展示飛行が計画されていたらしいのだ。結局、本国ウィリアムタウンでのF-111退役記念エアショーが同日に重なってしまい実現しなかったのだが、アメリカ軍以外の外国軍を招致しうるなど考えたこともなかったから、非常に大きな驚きと、今後への期待を得ることになった。来年以降も、何か驚くようなゲストを期待できるかもしれない。やはり三沢は別格だ。

別格といえば三沢はこんなものも展示している。雪国の基地では除雪部隊も冬の主役なのだ。

でも船が主役かは、よくわからない。そもそも、なんで展示されてるのかも、よく分からなかった。

まあ良いではないか、今日はお祭りだ。なんでもオッケー。

ピザとゲイタレイドもそう言っている。

とにかくバカでかい三沢基地、アメリカ軍のエアショーを精一杯楽しもう!

フライトディスプレイの先陣を切ったのは空自編隊だった。確かに曇ってはいるが、あれだけやきもきさせられた昨日までの予報からすれば、上々だろう。

F-2とF-16の前で空自・米軍双方の基地司令が握手を交わし、上空をそれぞれの戦闘機が航過する。日米安保50周年記念。こんな名目を前面に押し出し、派手な演出を行えるのは三沢が米軍との協同運用であり、基地に対する地元の理解も得られている証拠なのだろうか。

翌週の小牧や、同日の立川では考えられない状況だ。

先代F-1が去ったあの航空祭から、ちょうど10年経った。目の前を着陸滑走しているのはその後継のF-2だ。いつの間にか三沢に溶け込んでいる。環境は変わっているのだ。それでも、10年前と同じように、ここでビデオを撮っている自分はなにも成長していない気がして、呆れてしまう。(笑)

F-16編隊は大きく四角をかたどったボックス隊形で上空に進入、スマートなブレイクで着陸した。

D型はあまり見る機会がないから貴重といえば貴重なのかもしれない。例年そんなことを言って同じような画像を載せている自分はやはり成長していないのだろう。大きなお世話だ。

そうなんだ。時代は動いている。F-1では不可能だった離陸直後のこんな急上昇を軽々とこなすF-2が今の第3飛行隊の装備なのだ。

軽快なだけではない。脚出しでも余裕を見せる力強さも備えている。

そしてF-2は非常に切れのいいロール特性を見せる。YoutubeにF-2の動画を置くと、外国人は主翼のしなりとこの鋭いバンクに感嘆の声を寄せる。

フェイクファルコンなどと言い放つのは見た目にしか興味がないやつらだろう。

確かに顔は似ているが、中身は全く別物だ。鋭いロール特性を生み出すFBWのソースコードも含め、日本の航空工業界渾身の、意地を掛けた国産戦闘機なのだ。

続くF-16のデモに負ける気はぜんぜんしない。

昨年のサンダーバーズの時間は奇跡的に晴れ上がった。あの時、「今年だけでも良いから、この時間だけでも良いから、晴れてくれ!」と強く祈った人は多いはずだ。

そしてその祈りが通じた。それを思えば、今年少しぐらい雨にたたられても、空に文句を言うことはできない。あの時の雲がここへツケとして回ってきているだけだ。

でもそれはたぶん、今日の天気を正当化したい自分の言い訳なのだろう。自分の祈りで天気をコントロールできるわけがない。傲慢以外の何物でもない。

アメリカ空軍のF-16は当たり前だがF-2とほぼ同じ見た目、エンジンも同じ、ただ、それぞれがブロック30から枝分かれして、まったく別の道を辿っている進化系統だということを意識しなければ、普通の入場者には区別が付かないだろう。

結局のところ、見せ方の派手さが際立ったほうに軍配が上がることになる。

間近で戦闘機のデモフライトを体感すると「騒音」、「爆音」なんて言葉だけで伝えようとする報道がいかにいい加減か、実感する。

F110-GE-129の咆哮は音ではない。圧力そのものだ。

実際に空気が揺れ、腹の底まで振動する。たとえ基地近辺であっても、外で見るのと中で見るのとでは全く別物だ。

初めて戦闘機の飛行を間近に見た者は視覚や聴覚だけで感知して作り上げた認識以上に、全身を強く揺さぶられたような強烈な体験として印象に残ることになる。

19年前の中学生の自分にとって、特に何も考えていない能天気な男子中学生にとっては理屈よりもそんな衝撃の方が説得力があった。
派手な機動ではなかったが、このF-15の離陸を見ただけで、素から動いていない脳みそが完全に停止した。

しかも「世界最強の戦闘機」の折紙つきである。そんなものが目の前で空気を震わせ離陸する。中学生に冷静に考えろ!なんて求める方が無茶な話しだ。

そんなガキの頃から自分が保守的な性格であったことを差し引いても、その後20年近く心を鷲掴みにして離さない戦闘機の魅力なんて、言葉で語ることも映像で見せることも不可能だろう。

結局、ぐりさんも言っているが、体感するしかないのだ。

何も難しくない。自分で積極的に感覚を研ぎ澄まさなくても、あちらからガツンと殴ってくれる。ただ、エアショー会場にいれば良いだけのことだ。

そして、ただ獰猛なだけではない。千歳基地から飛来したF-15は、元ブルーインパルス6番機を勤めたパイロットによって、戦闘機の圧倒的な存在感とともに、それを操るパイロットの人間性も見せてくれた。

私と同じ函館市出身の彼は、ブルーインパルス所属時からとても優しく誠実そうな人柄で、自分も函館出身だと伝えた時はとても喜んでくれたのが印象に残っている。戦闘機パイロットというよりはむしろエアラインのエリートパイロットが似合いそうな雰囲気だった。今回デモンストレーションを始める前に機内から会場へ向けて自ら流したメッセージ、「さあ、これからはじめますよ」という声、喋り方、紳士というのは彼のことなのだろうと、再び感じることになった。

戦闘機パイロットというものは、猛々しいだけでは勤まらないのかもしれない。

アメリカ空軍がエンジェルウィングと名づけた派手なベイパーを主翼に発生させ、激しいGに耐えるパイロットの息遣いが会場のスピーカーから伝えられる。

ラマーズ法みたいだね!…なんて思わずいつものノリでレポを書きそうになるが、今日はそれは禁止だ。文体だけでもいつもと変えようと心に誓ったのだ。

物語ではない。主役もヒロインもいない、事件もない。もちろん、ニャンコもピッコロさんも出てこない。つまり、ストーリーのない、ただ事実をレポるだけのことにこんな文体を持ち込むとものすごく苦労することになる。いまそれを実感している。

読みにくい、分かりにくい、バカバカしいなどという貴方の全うな意見はぜんぜん聞こえないものとして、今日は頑張ることにした。

2機のF-15は交互に会場に進入しては躍動し、離脱していく。三沢基地所属のF-2やF-16だけではない、冷戦時代から強大なソ連と対峙してきた北部航空方面隊の実力を充分に示している。

スピードブレーキも駆使し繊細な操作で会場上空に戻ってくる。戦艦大和以上と形容されるパワーの塊のようなF-15を完璧に操って。

米空軍より厳しい規定のためか、ロールやループなどただ見た目の派手な機動は行わないが、その分、空自のデモは玄人芸が冴えている。最後にはマニアも唸らせる一風変わった動きを見せた。ラダーや各種舵面を駆使し、バンクさせることなく横滑りするかのようにふわふわと機体を左右に振る姿は、まるで擬似CCVのようだ。F-22やSu-27、それに各4.5世代機でもこのような動きは見たことがない。これをFBWをもたないF-15で実施する空自パイロットは世界最高峰の技術を持っているのかもしれない。

ほとんど絶望視していた天気予報だったが、まだ持ちこたえている。午前が終われば、半ば逃げ切ったようなものだ。後ろ向きな考えだな、と自嘲しながらも、その事実に満足し始めていた。

一瞬、目の前で展開したF-2編隊に戸惑いを覚えた。小松の第306飛行隊をルーツとする今の第8飛行隊は、このスプレッドアウトも伝統として引き継いでいることを、この瞬間まで忘れていたのだ。偶然撮れたからよかったものの、全く油断していた自分にドキリとする。どこか気が緩んでいるのかもしれない。

義務でも使命でもない、ただ、楽しいから来ているはずのエアショーなのに、撮れなかったら悔しい思いをする。

航空祭が好きなのか、撮影が好きなのか、分からなくなる時がある。もちろん、撮った時の快感をエアショーの楽しみのメインに据えたってかまわない。

第8飛行隊がF-2に改変完了したことにより、いよいよ三沢でもF-2による支援戦闘部隊の本格的なAGGデモが行われることになった。

もとからベイパーの発生しやすい機種ではあるが、主翼全面が真っ白に覆われた姿を見たのはこれが初めだ。それだけでも8Sqのこのデモに掛ける思いが伝わってくる。

機動飛行でも軽快な運動性を見せるF-2だが、主任務は対艦・対地攻撃なのだ。いわば、AGGデモこそこの部隊の本領発揮といえる。世界的に見てもF-16系の機種が模擬対地戦闘を実施することは極めて珍しい。やはり姿は似ていてもまったく異質のものなのだろう。

もちろん、一般向けにショーアップされた内容ではあるが、本気で飛ぶ戦闘機部隊は文句なくカッコイイ。理屈ではない、やはり体感なのだ。雨の予報にめげなかった遠来のファンはもちろん、地元からなんとなく見に来た人々にも伝わっただろうかと、自分が主催者ではないが、人々の反応はやはり気になってしまう。

自分が好きなものは、一般人からも高評価であって欲しい。

特に戦闘機というネガティブな存在である限り、理屈では絶対に勝てないのだから、それなら人々の五感に訴えるしかないのかもしれない。

それを狙ったわけではなくても、本気で飛んでいる姿は、ここで見ている人々にそれを伝えるに充分な魅力を持っている筈だ。

約1.5時間の昼休みの後、再びフライバイで飛行が再開される。午後にもオープニングを設定する三沢の運営はやはりどこかアメリカ的だ。

ブルーインパルスのナレーションも、いつもの日本語と同時に、英語での解説も入り、実にカッコイイ。

べったりと低い雲が流れ込んできていた。この状況では4区分か…。20年近く見ていれば、だいたいの予想は付くようになる。
航空祭以外のシーンでも、空の様子から天気を読むのが上手くなったと感じた経験を持つ人は多いのではないだろうか。

立ち上がってカメラを向ける人々の昂りが伝わってくる。大半の人が見に来ているのは、やはりこのブルーインパルスだろう。マニアから見れば決まったフライトで新鮮味に欠ける部分もあるのも事実だが、やはりアクロバット飛行は派手で分かりやすく、興味を引くものなのだ。

編隊を組み、スモークを曳く。これだけで特別感は何倍にもなる。

それも普通に離陸するのではない、低空から突如この角度で駆け上がる。他の展示飛行ではなかなか見られない、この「何か凄いこと」が目の前で起きている感覚は日常では絶対に味わえない。

もちろん、コケオドシなどではない。言い訳の出来ない衆人環視の状況でこんな密集編隊もこなす高度な技術に裏打ちされたショーだからこそ、人々も酔いしれるのだ。ハラハラするが安心してみていられる。ピンチになるが必ず正義が勝つ戦隊モノや水戸黄門に通じる感覚なのかもしれない。

いくつもの国でいくつものアクロバット飛行を見てきたが、どこの国でもやはりアクロチームは花形で、群集の喝采を浴びる存在なのだ。

飛行機マニアではない一般人にもストレートに訴えかけるアクロバット飛行はやはり、エアショー最大の見せ場であることは間違いない。

何度もエアショーに通った自分の立場で考えても、友人に飛行機を見せようと思うときは何の迷いもなくブルーインパルスを選ぶ。ほとんど、当たり前のように。

直射日光や猛暑・厳しい寒さを遮る事の出来ない飛行場、混雑する会場、トイレなど何十分も待たないと利用できないなど、航空祭に彼女や女友達を連れて行く気になど、とてもなれない。

だから、それでも飛行機を見に行く時は、やはりブルーインパルスが一番良い。
短い時間で楽しんでもらえるし、なにより、これを知らずにおくのはあまりにもったいない。

もっとはっきり言えば、「見てもらいたい」のだ。

会社の同僚を連れて行った岐阜基地航空祭も、友人と同行した昨年の防衛大学校も、いずれもそんな理由でブルーインパルスを選んだ。

自分にとっては見慣れたフライトでも、速過ぎて撮れないとか携帯で上手く撮れたとハシャいでいる姿、普段クールなアイツがレベルオープナーに思わず声を漏らした瞬間など、自分にとっても楽しい思い出になる。

20代半ばの女の子?なんて、なかなかアクロバット飛行になんか興味が向かないのではないかと思うが、実際に見るとこの通りなのだ。ブルーインパルスは、偉大だ。

マニア的な視点よりも、こういうストレートな感嘆こそ、ブルーインパルスが本来対象としているものなのだろうか。

とはいえブルーインパルスは玄人受けするチームであることも疑いようがない。派手な演出や機体の数に頼ることなく、繊細な課目で実直に勝負するブルーインパルスは技量の上で文句なく世界のトップレベルにいる。

フライト中にもどんどん低くなる雲低を考慮し、トレイルトゥダイアモンドロールはトレイルローパスに変更となった。

状況に応じて臨機応変に対応する姿に、いちいち「さすがプロ!」と半ば媚とも取れる発言がなされるのを目にしたり、同じく自分でもそんなことを言っていた。

だが、よく考えれば当たり前だ。彼らは正真正銘プロなのだ。それも、サンダーバーズやブルーエンジェルズにも負けない実力を備えた、世界的に見ても超一流のプロなのだから、素人がどうこう言うまでもない。どんな時も最大限のパフォーマンスを発揮するのは当たり前なのだ。

その当たり前のことを当たり前のようにこなし、なおかつ、「何か信じられないこと」を目の前で体現して見せ付ける。惹きつけないはずがないだろう。

そして創造への挑戦というT-4ブルー発足時から脈々と受け継がれた精神は衰えることなく、今年もこのダブルロールバックに結実している。ロールバック自体はヨーロッパでポピュラーな課目だが、それを大きく行い、雄大な隊形変換として完結させるのはブルーインパルスらしい世界で唯一のオリジナル性だ。

新課目を取り入れつつ伝統も守る。ブルーインパルスが半世紀もの長きに渡りエアショーの主役の座に付き続けるのも、こうした精神の賜物なのではないだろうか。

結果的に、フライト前に予想した「4区分」は正解だった。贅沢を言うなら、三沢でこそあの巨大な星、スタークロスを見せてもらいたかったとも思う。アメリカ人が大いに喜ぶはずだ。アメリカ空軍が航空自衛隊に喝采する。そんな姿を、見てみたかった。三沢の航空祭当日には、もう何年も実現していない。

私自身、2001年に4機で飛んだとき以来、ここで第1区分を見ていない。

目の前に戻ってきたブルーインパルスを迎えるため、観客が中央へ詰め掛けていく。素晴らしいパフォーマンスには、それに比例した歓声が送られる。

50th ANNIVERSARY 1960-2010 それに機付き長の名前の前に、今年のツアーロゴが描かれている。イタリアのフレッチェトリコローリのように「50」という機番を大書きしたりアクロチームを集めた派手な祝賀エアショーを開催することはなかったが、こんなちょっとしたポイントにブルーインパルスらしい繊細な祝福を感じた。

遠くの空がいっそう霞んできた。あっちは確実に雨が降っている。ここにも来そうだ。そんな感覚も、エアショーに通い続けているとだんだん身についてくる。ブルーインパルスが終わり、大部分の観客が帰る中、格納庫内に避難することに決めた。

遥か遠くにF-2が見えている。もしかしたら何かあるかもしれないと思ったが、あまりに遠く、行く気になれない。

しかし、行っておくべきだった。後で知ったのだが、あの機体は、8Sq50周年の記念塗装だったのだ。後悔先に立たずとはこのことだろう。会場を端から端まで歩かずして、何がエアショーファンだ。自分で自分を笑うしかなかった。

ご当地グルメも航空祭にはつき物なのだが、なにかとてもロックなラーメンを見つけた。シャモロックラーメン。シャモロック。ロックンロールより重厚に、ハードロックより軽快に、そんな印象だ。

まだA-10デモチームも、F-2も残っている。帰るわけには行かない。

意外に空いていた格納庫内からCH-47のデモを眺めた時は、やはり小雨がぱらつき始めていた。

さらに低くなる雨雲。これはA-10のデモは中止になるのではないか、と、半ば諦めていたのだが、ラジオからはA-10に離陸のクリアランスを出す通信が流れていた。

ソンナバカナー。

離陸クリアであるからには、格納庫から出ないわけには行かない。何度となく本国で鑑賞したA-10デモチームであるとはいえ、やはり日本国内で見られるなら見逃すわけには行かない。絶対に。

自分が楽しむことはもちろん、同じく日本のファンがどのように感じるのか、知りたい。

通常であればショーが中止されてもおかしくない状況の中、雲に隠れながらA-10は軽快に飛行した。

見た目からは想像の付かない軽快さを発揮するA-10は、戦闘機のデモチームにも劣らないアクロバティックなショーを見せることが出来る。

そんな飛行に加え、今回はこの気象で飛んでいるという、「信じられない」条件が加わっている。驚き呆れたと言う他に、どんな言葉を使えば良いのだろう。

こんな低空でのデモはレーダー等の誘導によるものではなく、目視による飛行のはずだ。もちろん計器は使うが、地上の目標物を参照し自分の姿勢や高度を判定しているはずだ。

にもかかわらず、突然低い雲から現れ、地面に向かって急降下したりする。高度100mを切りそうなこんなフライトで、地上も見えない雲の中から地面に向かって突進する対地攻撃デモなど、とても考えられない。

極低空を駆け抜け、派手にベイパーを発生させながら離脱していく。対地攻撃を主任務としたA-10ではあるが、こんな姿を見られる機会はめったにないはずだ。この視程の中飛んだA-10EAST Demoteamが今年のMVPかもしれない。

2年前、同じくアメリカからF-15デモチームがやってきた。あの時もやはり雨だった。そして、フライトは中止されてしまった。

考えてみれば昨年はサンダーバーズ、今年はA-10と、ここ数年、三沢はアメリカ本国からデモンストレーションチームを招いている。来年あたり、F-22とは行かなくとも、F-15Eのデモなど見られるかもしれないと期待してしまう。さらにいうなれば、F-111を招聘しようとしたように、どこか近隣国からの特別ゲストも期待したくなる。

三沢航空祭は航空自衛隊と地元民のふれあいのための一般公開、という本来の目的以上に、本格的なエアショーとしての側面が強いのだろう。

機体は近隣の米軍基地から調達し、パイロットだけが本国からやってくるスタイルは、ヨーロッパなどでも普通に行われるものだ。

よくF-16デモチームの解説で、「アクロ用に特別改修された機体ではない」というが、まさにそれを見せ付けている。

10月、在韓米軍の烏山基地では、A-10WESTデモチームが飛ぶことになっている。極短時間で東西揃うことになるが、やはり世界規模で展開、どこででも軍用機を完璧に運用してみせるアメリカ空軍の強大な空軍力を見せ付けられた気がした。

だれも、こんな変な形の攻撃機が、あんなすごい機動をできるなど、想像もしていなかったことだろう。戦闘機と違い、A/Bもないのだ。そしてS-3とほぼ同じエンジンである。

そんなイメージをあざ笑うように軽々とアクロを見せ、最後に観客の前でエルロンをパタパタと振ってみせるお茶目な姿まで披露した。やはりアメリカ空軍は別格だ。

また少し油断していた。プログラムにはないC-17が突然飛来、着陸したのだ。おそらく、デモではなく通常任務の一環なのだろうが、やはりこんな大きな機体が突然現れると驚いてしまう。

雲はますます低く、雨脚も強まってきた。なんとかA-10デモチームまで持ちこたえてくれた天気と、ギリギリまで飛ばしてくれた主催者に、すでに感謝の念を抱き始めていた。そんな中、最後のデモであるF-2が離陸した。既に限界を超えていたと感じるような雨雲の下。

暗い空に、いつもは見られないほど太いベイパーを曳いて駆け上がっていく。水蒸気というより、ほとんど水滴に近いのではないか。こんな状況で展示飛行が、しかも機動飛行ができるのだろうか。

そんな疑いとも心配ともつかない私の感情などまったく関係なく、F-2は雨雲に突入していく。

さっきのA-10で既に自分の感覚は狂わされている。出来るはずがないと感じた条件の中、また戦闘機が飛んでいる。いったいどうなっているのだ。何に突き動かされて、彼らは飛んでいるのだ。

分からない。本当に分からない。雨は激しく、傘を差しながら撮影するそのフライトは、昨年の浜松サンダーバーズより遥かに条件が悪かった。

ほとんど見えないのだ。それでもそちらが飛ぶならこちらも撮る。それこそ、何の使命感かは自分でもさっぱり分からない。

ただ、ここで撮影を諦めて眺めるだけでは負けたような気がするのだ。この年、この航空祭で、どんな状況で、何が起きていたのか。それを記録に残したい。そしてなにより、せっかく飛んでくれた飛行隊に申し訳が立たない気がした。

雨雲を掻き回し、雨粒をベイパーに変え、F-2は最後まで躍動した。

結局、雨天の予報は当たった。だがデモフライトも最後の最後にF-2が中断した以外はほぼ予定通り行われた。
ミスビードルやU-2のキャンセルがあったものの、これだけの規模で開催された今年の航空祭は、長く記憶に残るかもしれない。


「ホッキーナってだれ。ご当地キャラ?」  別にひねる必要はないから、アイツにストレートに聞いてみた。

「もう5年も帰ってないから知らないし。TONKくん(仮)、私より青森に詳しいね」 なぜか返答はひねくれている。

「たまには帰ってきなさいよ」、「帰れたらね」、なんて、結局ホッキーナはほとんど黙殺だったけど、
まるで父娘のようなくだらない会話を楽しめたのはたぶん、今日の1日に満足して、心に余裕があったからなのだろう。

そぼ降る雨の車窓を眺めながら、持ちこたえてくれた天気と、こんな状況でも精一杯見せてくれた三沢基地に心底感謝した。

 

かえる